ホンダS660は2015年から販売されている軽自動車規格のオープンカー。ホンダとしてはかつてビートという軽自動車オープンカーがあり、ビート再来と言われるほどの話題と期待がされていました。S660 conceptが発表されたのは2013年東京モーターショー。コンセプトモデルの時点で完成度はかなり高くこのまま市販してくれたらかなりカッコいいよなぁなんて思いながら筆者はコンセプトカーを見た記憶があります。エクステリアはS660 conceptと市販されたS660とほぼ同様です。
S660は特徴的な造形にしようとしている形跡がある
インテリアは若干変更変更されてしまいましたがコンセプトモデルに近い造形にしようとした努力が見られます。S660の特徴はエンジンを座席後方に搭載したミッドシップレイアウトを採用していること。ホンダは軽自動車を作るというよりもオープンスポーツカーを作るというスポーツカーに対する意気込みを感じるレイアウト。Nシリーズに代表されるホンダの軽自動車戦略からすればフロントにエンジンを搭載しトランクスペースを設けることもできたはず。しかしあえてミッドシップエンジンを採用することで車本来の操る楽しさやハンドルを切る楽しさを感じさせてくれる車となっています。このようなこだわりがホンダらしさでありホンダのスポーツカーに対する想い、S660に対する想いでもあり、先代のビートへの敬意でもあるように感じられます。オープンモデルであるS660のルーフは手動で幌を開閉する「ロールトップ」を採用。軽く簡単に開閉できるものの積雪などにも耐えられる強度を確保しています。
参考:オープンカー/カブリオレ/コンバーチブルの買取専門ページです
S660の非常に強いこだわり
全長3,395mm全幅1,475mm全高1,180mmのスリーサイズ。軽自動車の枠ということで全長と全幅は限られていますが全高は見るからに非常に低くスポーティーな印象。2シーターオープンカーですが、実際はタルガトップのように頭上部分だけが開く方式になっています。取り外した幌は丸めてフロントフード内に収納が可能。エンジンはホンダの軽自動車Nシリーズに使われているエンジンに専用チューニングを施し専用ターボチャージャー、高回転型バルブスプリング、油圧システム、エンジン音、排気音まで手が加えられています。駆動方式は後輪駆動、組み合わされるトランスミッションはCVT(無段階変速オートマチック)もしくは6速MTです。このMTは軽自動車初の6速であり、1速から5速までクロスレシオを採用しています。6速は高速走行での燃費重視の設定となっています。
シャシーは新設計、四輪ディスクブレーキ、サスペンションは四輪独立懸架と軽自動車でありながらもスポーツカーに負けないスペックやシステムを手に入れています。またペダル類の配置やMTのシフトフィールも節度のあるフィーリングを実現しています。乗り心地はハード過ぎず柔らかすぎない適度な踏ん張り感のある足回りであるため、日常の足として使うことも可能です。日頃の通勤から休日のドライブまで不満なく使うことができるでしょう。重量物となるエンジンを中央に搭載し乗員もホイールベースの間に収まるため回頭性が良くハンドルを切るのが楽しい車に仕上がっています。最新の車らしく安全装備やスタビリティコントロールなども装着されているため誰でも安心してスポーツドライビングを気軽に楽しめる魅力がS660にはあります。
限られた中で極めているのが素晴らしい
軽自動車規格の限られた枠の中でオープンスタイルを採用するのはかなり難しいことです。ましてやミッドシップを採用したS660の場合には取り外したルーフをどこに格納するのか悩ましいポイント。ソフトトップを丸めてフロントフードへ収納するアイデアは長年軽自動車を作り続けてきたホンダだからこそ生まれたアイデアなのかもしれません。スポーツドライビングと自然の空気を直で感じられ、解放感あるオープンドライブを制約内に収めたS660はホンダの努力とアンバサダーの存在があったからこそ実現できたと言えるでしょう。
ノーマルのS660の完成度も十分高いのですが、2018年アンバサダー土屋圭市が携わったコンプリートモデル「モデューロX」の販売が開始。S660モデューロXはエアロパーツ、専用サスペンションキット、ドリルドブレーキローター、アルミホイール、電動リアスポイラーがありそれぞれにしっかりとした役割と実感できる効果があり単にドレスアップするだけに留まっていないのが特徴。安い買い物ではありませんがモデューロXパーツを装着するだけでS660が別の車に変わったのではないかと思うほどの影響があります。エアロパーツは空気の流れや抵抗を考え最適な形状となっています。専用サスペンションキットは路面をがっしりと掴みアンジュレーション(路面のうねり)があっても絶えず追従するほどの完成度。電動リアスポイラーは高速域のみならず中速域や低速域でも威力を発揮する優れものです。
モデューロアンバサダー土屋圭市
ドリフトキング通称ドリキンこと土屋圭市が開発に携わったS660モデューロXについて「どんな道路(サーキットのような平坦な道や山道などアンジュレーションがある道)でも車を信頼してドライブできる。まさにこれが我々の目指すストリートチューンなんです」と話しています。さまざまなレースでの活躍、卓越したドリフトテクニックを持つ日本屈指のドライバー土屋圭市のお墨付きのS660モデューロXは装着して損はない装備のひとつと言えるでしょう。ノーマルのS660をワンランクどころか性能や素質を大幅に引き上げるアイテムです。
S660の素晴らしき世界
軽自動車のオープンカーはラインナップが限りなく少ないです。ましてやミッドシップ軽自動車オープンカーとなれば更に数は限られてきます。S660はスポーツカーとしての扱いを受けることが多く走行性能、コーナリングやサスペンションの良し悪し、パフォーマンスに対する評価が多く見られがちですがオープンカーとしての魅力も備えていることを忘れてはなりません。屋根が開くメリットはなんといっても解放感。自然の空気を直接感じられ、太陽の暖かさ、鮮度の高い空気を味わうことができます。季節を身体全体で感じながらゆったり流して走るのもオープンカーならではの魅力。正直な話、特別速い車ではなく、特別豪華でもなく、広いわけでも旅行の荷物が入るわけではありません。しかし、小さいからこそのメリットも多くあります。例えば、特別な人とのドライブ、デートにはもってこいの車。狭いからこそ運転席と助手席の距離が近く密着度が高いです。二人の距離も座席のようにどんどん縮んでいくことでしょう。ただ、オープンにするときに女性への配慮と紳士的な運転を忘れずに。軽自動車であるため狭いところも車幅のことを絶えず気にしながら走る必要もなくどんなところでもすいすい走れるのもS660の利点。さらに軽自動車は維持費である自動車税なども普通車と比較すると割安です。セカンドカーにもちょうどよいでしょう。趣味の車として楽しい車、操る楽しさを再確認させてくれる車がホンダS660です。
[ライター/齊藤 優太]