今回は、レクサスにとって特別なスポーツモデルの証である「F」の称号を持つセダン、「GS F」を紹介します。世界的に見れば、このクラスでもダウンサイジング・ターボ化が進んでいますが、「GS F」はその路線からは一線を画し、自然吸気の大排気量V8を搭載。豪快かつ滑らかな回転フィーリングは、このモデルでしか味わえない特別なものです。今回は「レクサス・GS F」の魅力をたっぷりとご紹介していきたいと思います。
特別な称号「F」
レクサス・GS Fのデビューは2015年11月のことでした。GS Fはその名の通り、レクサス・GSをベースに「日常からサーキットまで、誰もがシームレスに走りを楽しめる」という「F」モデルのコンセプトに沿って作られた、特別なスポーツセダンです。すでに生産中止になっているレクサス・IS Fに続いて、セダンの「F」モデルとしては8年ぶりにレクサスのラインナップに加わりました。
「F」には、かつてのトヨタF1の本拠地である「富士スピードウェイ」と、開発拠点である「東富士研究所」のふたつの由来が込められています。現在がF1から撤退してしまったものの、サーキットで培った技術を市販車にフィードバックするという点において、これ以上ふさわしいネーミングは存在しないでしょう。
エクステリアは、それまでに登場したレクサスの「F」のイメージを強く引き継いでいます。大型化されたフロントグリルには、内部にブレーキ冷却ダクトを配置し、特にサーキット走行時のブレーキ冷却効率を向上することに成功。フロントグリル両側には大型のグリルを設置し、内部にはオイルクーラーを配置することで、冷却に関する備えを万全のものとしています。また、リアエンドには台形状に設置された4本のテールパイプがあり、他の「F」モデルにも共通するデザインモチーフとなっています。
シンプルなモノグレード構成
レクサス・GS Fのウェブサイトに行って、仕様・価格のページを見てみると、他の国産車ではなかなか見られない光景が目に飛び込んできます。そう、レクサス・GS Fにはグレードが存在せず、価格の表示もひとつだけ、という、国産車ではとても珍しい販売形態となっているのです。
レクサスの他の車種を見ても、3つのエンジンラインナップに、内外装によって3つの仕様違いが存在するのが通常です。それだけ、レクサス・GS Fは標準車の仕上がりに自信を持っている、という証明と言えるでしょう。とはいえ、ボディカラー以外の選択肢は皆無、というわけでは決してなく、各種のメーカーオプションやディーラーオプションはきちんと用意されているので、カスタマイズして自分だけの一台を作り上げる、という楽しみは十分に残されています。
参考:セダンの買取専門ページです
注目のオプション装備としては、「F」専用のオレンジブレーキキャリパー、ポリッシュ仕上げのアルミホイール、クリアランス&バックソナー、ムーンルーフ(チルト&スライド式)、カラーヘッドアップディスプレイ、マーク・レビンソン製プレミアムサラウンドサウンドシステムなどが挙げられます。毎日の運転をより充実したものにするために、こういった上質なオプションはぜひ取り付けておきたいところ。純正装備ならではの完成度・クオリティの高さはもちろんのこと、リセールバリューの良さの見逃せないポイントです。
現代では希少な大排気量自然吸気V8
エンジンはレクサスの2ドア・スポーツクーペ「RC F」と共通の「2UR-GSE」型を搭載しています。今どき珍しい5リッターの大排気量が特徴のV8エンジンで、最高出力は351kW (477PS)/7,100rpm、最大トルクはなんと530N・m (54.0kgf・m)/4,800〜5,600rpmを発生します。1気筒あたり500cc以上の容量がありながら、レブリミットは7,100rpm以上という高回転型で、かつ自然吸気エンジンらしいトルクもあるという、稀有なエンジン特性を誇ります。
このエンジンの素性の良さを生かすために、レクサスはエンジン完成後に一手間加えています。エンジンを組みあげたのち、エンジンを一台一台、エンジン回転バランス調整を行なっているのです。これによって、自然吸気エンジンらしい自然なレスポンスや、リニアな吹け上がりに磨きをかけています。
ただし、現代の世界のライバルたちと比べると、いささか魅力に欠けるパワーユニットである、と言うこともできなくはありません。AMG E63S 4マチック+、BMW M5やアルピナB5ビターボ、アウディRS6アヴァントといったモデルたちの最高出力は500PS、600PSが当たり前。それでいてかつてのターボエンジンのような扱いにくさはみじんもなく、燃費もレクサス・GS Fよりも良好と、純粋に性能の比較ではGS Fの相手になりません。レクサスは高級車ブランドなのですから、「ライバルたちよりも安価」というのは単純に「利点」ということはできず、どちらかと言えば「ブランドの格が下」と言っていることと同義です。ぜひ次期後継モデルには、ライバルたちを驚かせるような、圧倒的なパフォーマンスを見せつけてもらいたいものですね!
思い切り走るための先進安全装備
450PS以上のエンジン出力をサーキットでも、そしてそのまま公道でも楽しむために、レクサス・GS Fは先進安全装備も充実しています。GS Fはレクサスの誇る予防安全パッケージ「Lexus Safety System +」を標準装備。レーンディパーチャーアラート(ステアリング制御機能付)、アダプティブハイビームシステム、レーダークルーズコントロール(ブレーキ制御付)、プリクラッシュセーフティシステム(歩行者検知機能付衝突回避支援タイプ)をパッケージ化し、安全運転を強力にサポートしています。2017年8月の一部改良において、新たにレーンキーピングアシストを採用するなど、機能の強化は随時行われています。
特に安全運転に役に立つオプション装備と言えば、カラーヘッドアップディスプレイが挙げられます。運転に必要な情報を大きな視線移動なしに認識可能なカラーヘッドアップディスプレイは、特に長距離の運転に大きな威力を発揮することでしょう。
今だからこそ味わえるFRスポーツセダン
サーキットまでクルマで出かけて、サーキットを同じクルマで走りまわり、帰り道も同じクルマで帰る。そんなハードな乗り方・遊び方をするクルマは、一体どんなポイントに重点をおいて作られるのでしょうか?
レクサス・GS Fは、全長4,915mmにも達する大柄なセダンであるにもかかわらず、サーキットと公道をシームレスに行き来するために、まず徹底的なボディ剛性の強化を行いました。レーザー溶接やスポット打点の増し打ちに加え、高剛性ガラス接着剤やレーザースクリューウェルディングなどでボディ剛性を大幅に向上させています。他にも、フロントブレース、リヤボディブレースの剛性の改善、ボディとの締結構造の追加などを行うことで、ハードなサーキット走行にも応える強固なボディシェルを作り上げました。
サーキットで最も重要なパーツであるブレーキには、フロントに対向6ピストン、リアに対向4ピストンのアルミ製モノブロックキャリパーを採用。さらに、マスターシリンダーの大径化、ペダル比の最適化などにより、効きの良さとコントロール性能を両立させています。他にも、高摩擦パッドなどの採用により、高い剛性とサーキット走行に耐える耐フェード性を確保。「F」専用オレンジブレーキキャリパーもメーカーオプションで用意しています。
大人4人がゆったりと移動できる快適性を保ちつつ、サーキットではまさにモンスターのごとき走りを見せるレクサス・GS Fは、国内にはライバル不在と言っても良い、まさに孤高の存在です。モデルの性質上、次期モデルが登場するかどうかは不透明ですが、だからこそ、今ぜひともこのパフォーマンスを体験しておきたいクルマのひとつではないでしょうか。それではまた、次回の記事でお会いしましょう!
[ライター/守屋健]