最近のマツダといえばスカイアクティブ・テクノロジーと魂動(こどう)デザインにより走りの良さや楽しさ、見るからに乗りたくなる曲面と曲線を使った動物的なデザイン、ラグジュアリー路線へ進んでいることで話題になります。昔からのマツダを知っている人はロータリーエンジンを量産した世界唯一のメーカーと認識している人もいるでしょう。
マツダ ロードスターという存在
忘れてはならないのがロードスターの存在。マツダロードスターは1989年から販売され現在(2018年時点)まで4世代にわたり、おおよそ30年もの間製造され、世界中で販売され世界中にロードスターユーザーとファンがいる名車です。世界的に厳しくなってきた排気ガス規制や衝突安全の観点から人気が落ちてきたライトウェイトオープンスポーツカー市場に一石を投じたロードスターは瞬く間に大ヒット。ロードスターを筆頭にライトウェイトオープンスポーツカー市場を盛り上げるきっかけとなった車です。今でこそロードスターは名車といえるほどになりましたがロードスターのデビューまでの道のりは決して楽なものではなく厳しいものでした。
ロードスターのABC
「NA」「NB」「NC」「ND」これらは歴代ロードスターの型式です。世代ごとにABCと順番になっているので一目で何世代目なのかがわかります。車好きやロードスターファンの間では「NAに乗ってます」や「NBもいいよね」といったように会話に使われるほどです。初代NA型は1989年から1997年まで販売されました。70年代から厳しくなっていった環境問題と安全性の観点から車両重量が重たくなりライトウェイトオープンスポーツカーが世の中から消えようとしていました。そんなときアメリカでのアンケート調査により車好きの4人に1人はライトウェイトオープンスポーツカーがあったら買いたいと言う声がありロードスターの開発を後押ししました。一部ライトウェイトオープンスポーツカーの開発に疑問を持つ声もありましたがエンジニアたちの熱い思いとマツダでなければできないことを実現したいという情熱がロードスター開発への原動力となったのです。エンジニアたちは駆動方式にFRを採用しオープンボディにすることにこだわり、新たなFRの開発に乗り出します。この時に誕生したのが「人馬一体」というキーワード。
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この言葉は今やマツダを象徴するキーワードでもありますが実はロードスター開発段階で生まれた言葉なのです。人馬一体のこだわりは駆動方式だけでなくパッケージにも現れています。アルミニウムを使ったボンネット、2シーターへの割り切り、幌を使ったルーフ、手動で開閉するルーフシステムなどライトウェイトスポーツの真髄である軽量化を徹底しているのです。他にも走りへのこだわりも妥協せず追求しています。四輪ダブルウィッシュボーン式サスペンションの採用と大排気量や過吸気に頼らず、あえて自然吸気エンジンを搭載しエンジンのフリクションを極限まで低下させアクセルに対する反応やエンジンをスムーズに回すことへこだわりを追い求めました。
洗練と削ぎ落とし、エンジニアのこだわりがライトウェイトオープンスポーツカーであるロードスターを作り上げていったのです。こうして誕生したのが初代ロードスター。ライトウェイトオープンスポーツカーが絶滅寸前であった時代でありながらロードスターはアメリカでの販売をスタート。結果はご存じの通り大ヒット。幌を採用したオープンボディによりロールしにくく、ライトウェイトならではの運転の楽しさは販売のスタート地点であるアメリカのみならず日本でも受け入れられました。ロードスターの成功を受け世界の自動車メーカーは次々とコンパクトスポーツカーを導入。世界中の自動車ファンや自動車メーカーにまで影響を与えた初代NAロードスターはマイナーチェンジを受けながら1997年まで約43万台が生産されました。
壁に当たったロードスター
1997年にはフルモデルチェンジが行われ2代目NBとなります。初代NA型から基本コンポーネントを受け継ぎつつもグラム単位で無駄を削ぎ落とし重量増加を最小限に留めましたが、初代で達成していた1,000kgを下回ることはできませんでした。その理由は自動車を取り巻く法律の変更が大きく影響しています。乗員保護の観点、衝突時の衝撃軽減措置を取り入れなければならなくなり重量増加と初代NAロードスターでアイコンのひとつとなっていたリトラクタブルライトの廃止は避けられなかったのです。それでも徹底した削ぎ落とし作戦でライトウェイトスポーツの楽しさはそのままに2代目NBへとバトンを渡すことができました。初代NAよりも曲線的になったデザインは今見てもグラマラスで美しさがありセクシーです。1999年には10周年記念モデルが製作され、累計販売台数は50万台を突破。2代目NBが終了となる2004年には累計販売台数は70万台を突破。2005年からは3代目NCロードスターとなり基本部分から全てが新設計になりました。ボディサイズを若干拡大しながらも重量は1,100kg前後とライトウェイトのコンセプトと人馬一体の楽しさは引き継いでいます。ただ、世代を追うごとに重量の増加は避けられず自動車業界全体から見ればライトウェイトであるもののロードスター本来の軽さからはほど遠くなってしまい販売も伸び悩んでいたのも事実です。
2016年にはワールド・カー・オブ・ザ・イヤーなどを受賞
2010年マツダはスカイアクティブテクノロジーを発表し車をゼロから見直す戦略を開始しました。そして2015年、スカイアクティブテクノロジーと魂動デザインを取り入れた4代目NDロードスターへフルモデルチェンジ。新技術と新アイコンを取り入れた革新的なロードスターとなった4代目NDは一言でいえば原点回帰。3代目まで大型化してしまったボディは縮小され歴代ロードスターでも最小のサイズになり、スカイアクティブテクノロジーによりボディの軽量化にも成功。初代NAロードスターに匹敵する1,000kg切りも実現しました。技術革新による軽量化と厳しくなる安全性もクリアし、躍動感溢れる魂動デザインにより存在感ある新たなライトウェイトオープンスポーツカーの世界を切り開いた4代目NDロードスター。
2016年にはワールド・カー・オブ・ザ・イヤーとワールド・カー・デザイン・オブ・ザ・イヤー(日本車初)を同時受賞。走りとデザインの両方が世界的に認められました。また累計販売台数も100万台を突破しまだまだ販売台数を伸ばし続け、ギネスワールドレコードにも「世界で最も多く生産された2人乗り小型オープンスポーツカー」として認定され記録を随時更新しています。ライトウェイトコンパクトオープンスポーツカーの歴史を作ったマツダロードスター。こだわりと技術と情熱がコンパクトサイズに凝縮され、軽快な走りと爽快感を感じられるのは軽量なオープンカーだからこそ実現できたのでしょう。人と車が一体になり自然を感じながら運転する喜びを感じることができるのは人馬一体ロードスターの魅力です。原点回帰したNDロードスターですがもし買うのであれば「RS」がおすすめ。ビルシュタイン製ダンパー、フロントサスタワーバー、大径ブレーキ、レカロシートなどの専用装備が安定した走りと楽しさを提供してくれるだけでなく所有する満足感まで与えてくれるからです。トランスミッションはやはりMT。初期投資は高くても長く付き合える良いパートナーとなるでしょう。
[ライター/齊藤 優太]